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AIエンジニアの仕事とは
AIエンジニアは、機械学習やディープラーニングを用いてAIシステムを開発・運用する技術者です。データの収集から前処理、モデルの設計・開発・評価、そして実際のビジネス課題解決まで幅広い業務を担当します。
AIエンジニアの主な業務
- ● AI開発: 機械学習やディープラーニングのモデル開発
- ● データ処理: データの収集、前処理、特徴量設計
- ● システム実装: AIモデルの実装、API化、デプロイ
- ● 評価・改善: モデルの評価、パフォーマンス最適化、継続的改善
AIエンジニアの仕事は、担当するプロジェクトの工程によって日々の業務内容が変わります。企画・設計、開発、データ準備、AIの学習、テスト・評価といった流れでプロジェクトを進めていくのが一般的です。
基本的にはオフィス内でのデスクワークが中心ですが、最近ではリモートワークやフレックス制度を導入する企業が増えており、働き方の自由度が高まっています。
AIエンジニアの1日のタイムスケジュール
一般的なAIエンジニアの1日のスケジュールを時系列で紹介します。企業によって多少の違いはありますが、実働8時間程度で9:00~18:00を定時としている会社が多いです。
出社・メールチェック
出社後、まずはメールやSlackなどのコミュニケーションツールをチェック。前日のシステムログやモデルの学習状況を確認し、緊急対応が必要な問題がないかを把握します。フレックス制度を利用して10時頃に出社する人も多いです。
デイリースタンドアップ
チームメンバーと短時間のミーティング(15分程度)を実施。各自が昨日の進捗、今日やること、困っていることを共有します。アジャイル開発の手法を取り入れている企業では、このスタンドアップミーティングが日課となっています。
モデル開発・コーディング
午前中の集中力が高い時間帯は、コーディングやモデル開発に充てます。PythonでPyTorchやTensorFlowを使い、機械学習モデルの設計や実装を行います。
主な作業内容:
- • ニューラルネットワークの設計と実装
- • ハイパーパラメータのチューニング
- • モデルのトレーニング・検証
- • コードレビューとバグ修正
ランチ休憩
職場周辺でランチを取ったり、社内食堂やお弁当を利用したりします。同僚と食事をしながら情報交換することも多く、技術的な相談や最新のAI技術について雑談することも。リモートワークの場合は自宅で食事を取ります。
データ分析・実験
午後は、データの前処理や特徴量エンジニアリング、実験的なモデルの試行などを行います。データの可視化や統計分析を通じて、モデルの改善点を探ります。
典型的な作業:
- • データクレンジングと前処理
- • 特徴量の設計と抽出
- • 探索的データ分析(EDA)
- • 複数モデルの比較実験
ミーティング・コードレビュー
プロジェクトの進捗確認ミーティングや、チームメンバーのコードレビューを行います。ビジネスサイドとの要件確認や、AIモデルの精度や性能についての議論も。クライアント企業に常駐している場合は、クライアントとの打ち合わせもこの時間帯に行います。
ドキュメント作成・技術調査
開発したモデルのドキュメント作成や、設計書の更新を行います。また、最新の論文や技術ブログを読んで、新しい手法やアルゴリズムをキャッチアップする時間にも充てます。
この時間帯の活動:
- • 技術ドキュメントの作成・更新
- • 最新論文のリサーチ
- • 翌日のタスク整理
- • プロジェクト進捗の記録
退社
基本的には18時に退社しますが、プロジェクトの進捗状況によっては残業が発生することもあります。ただし、多くの企業では働き方改革が進んでおり、無理な残業を強いられることは少なくなっています。フレックス制度を利用して早めに退社するエンジニアも増えています。
補足:プロジェクトフェーズによる違い
上記は一般的なスケジュールですが、プロジェクトのフェーズによって業務内容は大きく変わります。例えば、研究開発フェーズでは論文調査やアルゴリズム検証に多くの時間を使い、運用フェーズではモニタリングやトラブルシューティングが主な業務となります。
AIエンジニアが使うツール・技術
AIエンジニアは日々様々なツールやライブラリを使って業務を行います。2025年現在、最も広く使われている技術スタックを紹介します。
■ プログラミング言語
Python
AIエンジニアの必須言語。機械学習のライブラリが豊富で、データ処理から深層学習まで幅広く対応できます。文法がシンプルで読みやすく、初心者にも学びやすいのが特徴です。
Pythonでできること:
- • 機械学習モデルの開発
- • データの前処理・可視化
- • APIサーバーの構築
- • 自動化スクリプトの作成
■ 機械学習・深層学習フレームワーク
PyTorch
Meta社が開発したディープラーニングフレームワーク。研究者の間で特に人気が高く、最新の論文実装が見つけやすいのが大きな利点です。
PyTorchの特徴:
- • 動的計算グラフでデバッグしやすい
- • NumPyと似た操作性
- • GPU対応で高速計算
- • 活発なコミュニティ
TensorFlow / Keras
Google開発のフレームワーク。本番環境へのデプロイが容易で、エッジデバイスでの推論にも対応しています。Kerasは高レベルAPIで初心者にも扱いやすいです。
TensorFlowの特徴:
- • 本番環境への展開が容易
- • TensorFlow Liteでモバイル対応
- • TensorBoardで可視化
- • 企業での採用実績が豊富
■ クラウドプラットフォーム
| プラットフォーム | 主な特徴 | 用途 |
|---|---|---|
| AWS (SageMaker) | 豊富なサービス、高い信頼性 | エンドツーエンドのML開発 |
| Google Cloud (Vertex AI) | TensorFlowとの親和性、AutoML | MLモデルの開発・運用 |
| Microsoft Azure (ML Studio) | 企業向け機能、統合開発環境 | エンタープライズML |
■ データ処理・分析ツール
Pandas
データフレーム操作、前処理、集計
NumPy
数値計算、配列操作、線形代数
Matplotlib / Seaborn
データ可視化、グラフ作成
■ 開発環境・ツール
Jupyter Notebook / JupyterLab
対話的にコードを実行できる開発環境。データ分析や実験に最適。
VS Code / PyCharm
本格的な開発向けIDE。デバッグ機能やGit連携が充実。
Git / GitHub
バージョン管理システム。チーム開発には必須のツール。
Docker
コンテナ技術。環境構築の再現性を確保。
初心者へのアドバイス
最初はPythonの基礎とPandasでのデータ処理を学び、その後PyTorchかTensorFlowのどちらかに絞って深く学習することをおすすめします。全てを一度に習得する必要はありません。プロジェクトを通じて必要なツールから順に学んでいきましょう。
やりがいと大変なこと
AIエンジニアとして働く中で感じるやりがいと、直面する困難について、現場の声をもとに紹介します。
✓ やりがい
最先端技術に携われる
AI技術は日々進化しており、常に新しい技術や手法を学び、実践できます。論文で発表された最新のアルゴリズムを実際のプロダクトに組み込むことができるのは、技術者として大きな喜びです。
ビジネスインパクトが大きい
AIを活用した自動化や最適化によって、企業の業務効率を大幅に改善したり、新しいサービスを生み出したりできます。自分の開発したモデルが実際にビジネスに貢献している実感を得られます。
高い市場価値と年収
AIエンジニアの需要は高く、給与水準も他のエンジニア職種と比べて高めです。スキルを磨けば、フリーランスとして月額100万円以上の案件を獲得することも可能です。
社会貢献ができる
医療診断支援、環境問題解決、災害予測など、AIは様々な社会課題の解決に貢献できます。自分の技術が人々の生活を良くすることに繋がるのは、大きなやりがいです。
▲ 大変なこと
継続的な学習が必須
AI分野は技術の進化が非常に速く、常に最新情報をキャッチアップする必要があります。論文を読んだり、新しいフレームワークを学んだりと、業務時間外にも学習を続ける必要があります。
期待通りの結果が出ないことも
機械学習モデルは、データの質や量、アルゴリズムの選択など様々な要因で性能が左右されます。何週間もかけて開発したモデルが期待した精度に達しないこともあり、忍耐力が求められます。
データ収集・前処理の手間
実際の業務では、モデル開発よりもデータの収集や前処理に8割の時間を費やすこともあります。地道な作業が多く、華やかなイメージとのギャップを感じることもあります。
ビジネス側との調整
技術的に実現可能なことと、ビジネス的に求められることが一致しないケースもあります。非技術者に対して、AIの可能性と限界を分かりやすく説明するコミュニケーション能力も重要です。
現役AIエンジニアの声
「データの前処理は地味ですが、モデルの性能を大きく左右します。最初は退屈に感じるかもしれませんが、この工程をしっかりやることで、後々のモデル開発がスムーズになります。やりがいは、自分が開発したモデルが実際のサービスで使われ、ユーザーに価値を提供できたときですね。」
リモートワークの実態
2025年現在、AIエンジニアのリモートワークは広く普及しています。実際の働き方や、リモートワークのメリット・デメリットについて解説します。
リモートワークの普及状況
- ● AIエンジニアのリモート求人: 137,878件
- ● 未経験でもフルリモート可能な求人: 8,269件
- ● 74.8%の人が「リモートワークで成果を出せる」と回答
■ 働き方のパターン
完全リモート
出社不要で全ての業務を自宅で実施
採用率: 19.3%
ハイブリッド
週2-3日出社、残りはリモート
採用率: 65.6%(最多)
常駐
クライアント先で基本出社
SIer・SES企業に多い
✓ リモートワークのメリット
通勤時間ゼロで時間を有効活用
通勤にかかっていた時間を学習やプライベートに充てられます。往復2時間の通勤がなくなれば、年間で約500時間の節約になります。
集中できる環境で生産性向上
オフィスの雑音や割り込みが少なく、深く集中してコーディングやモデル開発に取り組めます。特にディープワークが必要な作業に適しています。
フレキシブルな働き方
育児や介護との両立がしやすく、ワークライフバランスを保ちやすくなります。地方在住でも都市部の企業で働くことが可能です。
コスト削減
通勤費、昼食代、服装費などが削減でき、年間数十万円の節約になることも。企業側もオフィススペースの削減が可能です。
▲ リモートワークの課題
コミュニケーション不足
対面での雑談や相談がしにくく、チームの一体感が薄れることがあります。SlackやZoomなどのツールを活用した意識的なコミュニケーションが必要です。
オンオフの切り替えが難しい
自宅が職場になるため、仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちです。意識的に休憩時間や終業時間を設けることが重要です。
自己管理能力が求められる
上司の目が届かない環境で、自分でスケジュール管理やタスク優先度の判断をする必要があります。自律的に働ける人に向いています。
ネットワーク環境の整備が必要
安定したインターネット回線や、モデルのトレーニングに必要な計算リソース(GPU等)を自前で用意する必要がある場合もあります。
リモートワークを成功させるコツ
- 1. 決まった作業スペースを確保し、仕事モードに入る環境を作る
- 2. 定期的にビデオ会議でチームメンバーと顔を合わせる
- 3. 進捗をこまめに共有し、困ったときは早めに相談する
- 4. 休憩時間を意識的に取り、適度に体を動かす
freeeなどの企業では、原則全従業員が在宅勤務となり、愛媛県の大三島という離島からフルリモートで働くエンジニアもいます。場所にとらわれない働き方が現実になっています。
未経験からAIエンジニアになるには
AIエンジニアは需要が高く、未経験からでもキャリアチェンジが可能です。効果的な学習方法とキャリアパスを紹介します。
■ 学習ロードマップ
プログラミング基礎(Python)
学習期間: 1-2ヶ月まずはPythonの基本文法を学びます。変数、関数、クラス、制御構文などを理解し、簡単なプログラムを書けるようになりましょう。
おすすめ学習方法:
- • Progate、Progateなどのオンライン学習サービス
- • 「Python入門」などの書籍
- • 簡単なCLIツールを自作してみる
数学基礎(統計・線形代数)
学習期間: 2-3ヶ月機械学習を理解するために必要な数学を学びます。完璧に理解する必要はなく、概念を掴むことが重要です。
学ぶべき内容:
- • 確率・統計(平均、分散、確率分布)
- • 線形代数(ベクトル、行列演算)
- • 微分(勾配、最適化の基礎)
機械学習基礎
学習期間: 3-4ヶ月機械学習の基本的なアルゴリズムとライブラリの使い方を学びます。理論だけでなく、実際に手を動かすことが重要です。
学習内容:
- • Pandas、NumPyでのデータ処理
- • scikit-learnで基本的なモデル構築
- • Kaggleのチュートリアルに挑戦
深層学習(ディープラーニング)
学習期間: 4-6ヶ月PyTorchやTensorFlowを使って、ニューラルネットワークを構築します。画像認識や自然言語処理の基本的なモデルを実装してみましょう。
実践的な学習:
- • PyTorchの公式チュートリアル
- • 画像分類モデル(CNN)の実装
- • 自然言語処理(LSTM、Transformer)
ポートフォリオ作成・実践
学習期間: 継続的学んだ知識を活かして、オリジナルのプロジェクトを作成します。GitHubで公開し、就職活動でアピールできるようにしましょう。
プロジェクト例:
- • 画像分類アプリ(犬・猫判定など)
- • チャットボット開発
- • Kaggleコンペへの参加
- • 論文の再現実装
■ おすすめの学習リソース
| カテゴリ | リソース名 | 特徴 |
|---|---|---|
| オンライン講座 | Udemy、Coursera | 体系的に学べる、動画で分かりやすい |
| 実践練習 | Kaggle | 実データで競技、コミュニティが活発 |
| スクール | TechAcademy、DMM WEBCAMP | メンター付き、転職サポートあり |
| 書籍 | ゼロから作るDeep Learning | 基礎から丁寧に解説、手を動かせる |
未経験者へのアドバイス
AIエンジニアへの転職は、年齢や経験に関わらず可能です。30代未経験からの転職成功事例も多数あります。重要なのは、継続的に学習し、実際に手を動かしてプロジェクトを作ることです。最初から完璧を目指さず、小さなプロジェクトから始めて徐々にスキルアップしていきましょう。転職活動では、GitHubでのコード公開やKaggleでの実績が大きな武器になります。
詳しい学習方法については、未経験からAIエンジニアになるロードマップやAIエンジニアに必要なスキルと学習順序の記事もご参照ください。
よくある質問(FAQ)
Q1. AIエンジニアの平均残業時間はどのくらいですか?
企業やプロジェクトによって異なりますが、月20-30時間程度が一般的です。スタートアップでは多めになることもありますが、大手企業では働き方改革が進んでおり、残業は少なめの傾向にあります。フレックス制度を活用すれば、自分のペースで働けます。
Q2. AIエンジニアの年収はどのくらいですか?
未経験からの場合は年収400-500万円程度からスタートしますが、経験を積めば700-1000万円以上も可能です。フリーランスでは月額100-160万円の案件もあります。詳しくはAIエンジニアの年収記事をご覧ください。
Q3. 文系出身でもAIエンジニアになれますか?
はい、可能です。実際に文系出身でAIエンジニアとして活躍している人は多数います。数学の知識は必要ですが、高校レベルの数学を復習しながら学べば十分です。重要なのは、論理的思考力と継続的に学習する意欲です。
Q4. 学習にはどのくらいの期間が必要ですか?
未経験から就職レベルに到達するには、1日2-3時間の学習で6ヶ月〜1年程度が目安です。プログラミング経験者なら3-6ヶ月程度で基礎を身につけられます。ただし、AIエンジニアとして働き始めた後も、継続的な学習が必要な職種です。
Q5. AIエンジニアとデータサイエンティストの違いは?
AIエンジニアは主にAIモデルの開発・実装・運用を担当し、エンジニアリングスキルが重視されます。一方、データサイエンティストはビジネス課題の分析や施策提案を行い、統計学やビジネス理解が重視されます。両者の境界は曖昧で、企業によって定義が異なります。
Q6. 資格は必要ですか?
必須ではありませんが、G検定やE資格を取得することで基礎知識の証明になります。特にE資格は深層学習の実装能力を示すことができ、転職活動で有利になります。ただし、資格よりも実際のプロジェクト経験やGitHubでのコード公開の方が重視されることが多いです。詳しくはAI関連の資格記事をご覧ください。
まとめ
AIエンジニアの1日は、モデル開発やデータ分析といった技術的な作業だけでなく、チームミーティングやドキュメント作成など多岐にわたります。基本的には9時から18時の勤務が多いですが、フレックス制度やリモートワークの普及により、働き方の自由度は高まっています。
この記事の要点
- ✓ AIエンジニアは機械学習・ディープラーニングを用いてAIシステムを開発する
- ✓ 1日のスケジュールはモデル開発、データ分析、ミーティング、調査など多様
- ✓ Python、PyTorch、クラウドサービスなどのツールを使いこなす必要がある
- ✓ 最先端技術に携われるやりがいがある一方、継続的な学習が必須
- ✓ リモートワークが普及し、場所にとらわれない働き方が可能
- ✓ 未経験からでも6ヶ月〜1年の学習でキャリアチェンジが可能
AIエンジニアは、技術の進化が速く常に学習が求められる職種ですが、その分やりがいも大きく、市場価値も高い職業です。リモートワークやフレックス制度により働き方の自由度も高く、ワークライフバランスを保ちながらキャリアを築けます。未経験からでも計画的に学習すれば、十分に目指せる職種なので、興味がある方はぜひチャレンジしてみてください。